ヴァレンティン・ヴァシリリョヴィッチ・シルヴェストロフ(Valentin Vasilyovich Silvestrov,1937~キエフ<キーウ>)は現代ウクライナを代表する作曲家である。その若き日のモダニズムや新古典主義、そして戦後の前衛の流れを汲んだ作品の幾つかは嘗てイタリアの作曲家マデルナ(Buruno Maderna,1920~1973)にも称賛された。しかし1970年代以降は伝統的な調性や旋法も用いながらその語法は所謂保守的傾向へと転換をみせた。「私が作曲しているのは新音楽ではないのです。私の音楽は既存の音楽への反応であり、反響なのです」と作曲者自身語っている。
シルヴェストロフは1974年ソヴィエト作曲家同盟から除名されるが、その後はソ連との結びつきを止め西側との繋がりを深めた。出版主要作品には8つの交響曲、ピアノとオーケストラのための詩曲、ピアノ・ソナタ、3つの弦楽四重奏曲をはじめとする室内楽曲、また種々の管弦楽作品及びカンタータや歌曲等がある。
デビュー時に前衛的手法で脚光を浴びた後再度大衆的な支持を得た例は、ポーランドのヘンリク・グレツキ(Henryk Gorecki,1933~2010)を思わせるが、今日のロシヤによるウクライ進行で全世界から注目を集めている作品は「ウクライナへの祈り」’’Prayer for Ukraine’’(2014,2022改訂)であることは言うまでもない。
その素朴かつ自然なエクリチュールは世界中の人々の心を捉えてやまない。そしてそれは戦いなど望まずに命を落とした数多くの人たち、両国の兵士への追悼の歌でもある。
嗚呼!永久に響かん、彼らのほねの耳に……