「男はつらいよ」小津安二郎生誕120年に再考する


「男はつらいよ」

 1969年から50作近くまで続いたこの映画シリーズはただの人情噺ではありません。

 山田洋二監督は小津安二郎映画の影響を強く受けながら、当時の任侠映画のパロディーから出発したのでしょうか。しかしながらこのシリーズ、小津作品から受け継いだその映像美や画面構成、特に朱(あか)色の配置などは見るものを過去へとと引きずり込み、そして古の日本の風景は無意識のうちに心の裡へと刻み込まれるのです。

 マドンナの活躍はもちろんの事、嵐勘十郎や田中絹代といった往年の名優が顔を出すのもここでは黄金の時間と言えるでしょう。

 音楽は山本直純。ペンタトニック(5音音階)をベースに歌われる星野哲郎の歌詞は僅か二行で、胸を打つ。また突如劇中に挿入されるクラシックの断片はバロックからウィーン古典派を経てシューベルト、ヨハン・シュトラウス、ベルリオーズは「幻想交響曲」の舞踏会のワルツ、チャイコフスキー、そしてマーラーの交響曲からと幅広い。そしてここに一種の心象的カタルシスをみるのは果たして筆者だけでしょうか…..

               


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